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こんにちは、がくです。福島県白河市で肉屋「肉の滝沢」をやっています。
元は養豚場を営み、いまは精肉専業となって約28年。毎日お肉を切り、お客さんにお渡ししています。
同じお肉でも、焼き加減ひとつで食卓の表情は変わります。ちょうどいい焼き上がりのステーキを家族で囲む夜もあれば、「中まで火が通ったかな」と心配になって何度も切ってしまい、肉汁が流れ出てしまう日もあるかもしれません。
今回は、焼き加減についてよくある疑問を9つ選び、仕組みの説明と、肉屋として私が普段考えていることを合わせてお答えします。
先に大事なことをひとつお伝えします。焼き加減の「好み」を楽しめるのは、加工していない牛肉のステーキなど一部に限られます。豚肉・鶏肉・挽き肉料理・加工した肉は、中心までしっかり火を通すのが基本です。この前提で読み進めてください。
Q1. 牛肉はレアでも平気なのに、豚肉や鶏肉はダメなのはなぜ?
正直に言うと、私は長いあいだ「豚や鶏は菌を持っているから」とざっくり考えてきました。あらためて調べると、その感覚は大きく外れてはいないものの、肉の種類ごとに理由が少しずつ違います。
豚肉:生食用の販売・提供は法律で禁止
2015年6月12日から、食品衛生法に基づき、豚の肉や内臓(レバーなど)を生食用として販売・提供することが禁止されています(厚生労働省)。
理由は、E型肝炎ウイルスや寄生虫が肉の内部に入り込んでいることがあり、内部までしっかり加熱する以外に有効なリスク低減策が考えられないためです(東京都保健医療局「豚の食肉の規格基準」)。厚生労働省も、「新鮮」かどうかは関係なく、中心部まで十分に加熱して食べるよう呼びかけています。
加熱の目安は、中心部の温度が63℃で30分間以上、または75℃で1分間以上などです(厚生労働省)。
鶏肉:禁止ではないものの、加熱するよう呼びかけられている
鶏肉には、豚肉のように生食での提供そのものを禁止する法令はありません(目黒区)。
それでも、食鳥処理後の鶏肉の67.4%からカンピロバクターという菌が検出されたという調査結果があり(厚生労働省「食品製造の高度衛生管理に関する研究」)、自治体は鶏肉を中心部まで十分に加熱して食べるよう呼びかけています。
カンピロバクターは少ない菌量でも食中毒を起こすことがあり、鮮度の良し悪しや冷やしていたかどうかには関係ありません。また、まれに感染から数週間後に、手足のまひなどが起こるギラン・バレー症候群という神経の病気につながることもあります(厚生労働省、渋谷区)。
牛肉:菌は主に表面に。ただし「レア」と「生」は別物
牛のステーキ肉は、食中毒菌が主にカットした表面についているため、表面(側面も)をしっかり焼くことで、食中毒になる可能性を大幅に減らせるとされています。表面を焼いたレアステーキが食べられるのは、このためです。
ただし、次の点はぜひ覚えておいてください。
- リスクはゼロではありません。菌は時間とともに表面から内部へ入り込むことがあるため、子どもや高齢者など食中毒への抵抗力が弱い方は、中までしっかり焼いて食べることがすすめられています。
- 加工した牛肉は、必ず中まで焼きます。細かい肉を固めた成型肉(サイコロステーキなど)、やわらかくするために筋切りした肉、調味液を染み込ませた肉は、菌が内部まで入り込んでいる可能性が高いためです。こうした肉には「牛肉加工品」などの名称や、十分な加熱が必要な旨が表示されています。
- 牛レバーは、生食用としての販売・提供が2012年7月1日から禁止されています(厚生労働省)。
- 焼かずに生のまま食べる牛肉は、別の扱いです。ユッケ、牛刺し、牛タタキなどの生食用の牛肉は、2011年10月1日から、専用の設備での加工や、肉の表面から深さ1cm以上の部分を60℃で2分間以上加熱殺菌することなどを定めた基準を満たしたものしか、販売・提供できません(広島県、栃木県)。
「生食用」と表示されていないお肉は加熱用です。お店で買ったステーキ用や焼肉用の牛肉を、ユッケや刺身のように生で食べるのはやめましょう。
Q2. ステーキの焼き加減、切らずに確かめる方法は?
私がやっているのは、爪楊枝を肉のいちばん厚いところに刺してみる方法です。抜いたときに出てくる汁の色と、刺した跡からのぞく断面の赤さを見ます。赤い汁がにじむなら中はまだ生に近く、汁が透明に近づくほど火が通ってきている目安になります。
ちょっとしたコツを添えておきます。
- 表面をしっかり焼いてから刺します。菌は主に肉の表面にいるので、焼く前や焼き始めに刺すのは避けたほうが安心です。
- 刺すのは1〜2か所にとどめます。穴が増えるほど、そこから肉汁が逃げてしまいます。
なお、爪楊枝で見るのはあくまで目安です。色の変化には個体差や焼き方による差もあるため、豚肉・鶏肉・ハンバーグのように中まで火を通す必要があるものは、見た目だけに頼らないほうが安心です。いちばん確実なのは、中心温度計で温度を測ることです。
Q3. 厚切り肉と薄切り肉、焼き加減の目安は同じ?
同じではありません。厚い肉ほど、中心まで熱が届くのに時間がかかります。表面はこんがり焼けて見えても、中心の温度はまだ上がりきっていない、ということがよくあります。
食品安全委員会も、肉が厚くなると中心部を同じ温度にするのに長い時間がかかると注意を呼びかけています。ですから私は、厚い肉は長めに焼くようにしています。
一般的には、厚切りは表面に焼き色をつけたあと火を弱め、ふたをするなどして中までじっくり火を通し、薄切りは短い時間でさっと焼き上げるのが基本とされています。薄切り肉は火が通るのが早いぶん、焼きすぎると硬くなりやすいので、色が変わったら早めに火から下ろしましょう。
Q4. 「中が赤い」のは生焼け?それとも大丈夫?
私の考えは、「赤さそのものより、中心の温度が大事」です。
お肉の赤い色は、主にミオグロビンという色素によるもので、加熱すると色が変わっていきます。ただ、色の変化には個体差や焼き方による差もあるため、見た目だけで「安全に加熱できた」と判断するのは難しいところがあります。
たとえば、お店で売られているローストビーフは中が赤く見えますが、生ではありません。食品衛生の基準に沿って、中心部までしっかり加熱殺菌されたものです。
まとめると、こう考えるとわかりやすいと思います。
- 加工していない牛肉のステーキ:表面をしっかり焼いてあれば、中が赤いのは好みの範囲です(Q1の注意点も参照してください)。
- 豚肉・鶏肉・挽き肉料理・加工した肉:中が赤ければ、もう少し加熱を続けます。色が変わっていても、できれば中心温度計で確かめるとより安心です。
Q5. ハンバーグなど挽き肉料理の焼き加減は、ステーキと同じでいい?
同じではありません。ここでも大事なのは、中心の温度と加熱の時間です。
別記事でも触れていますが、挽き肉は肉を細かくする過程で、表面についていた菌が内部まで混ざり込んでしまいます。そのため、牛肉だけで作ったハンバーグでも、ステーキのようにレアで食べることはできません。
目安は中心部75℃で1分間以上です(厚生労働省)。ハンバーグは外側が焼けていても内部が生焼けのことがあるので、竹串を刺して出てくる肉汁が透明になるまで加熱しましょう。
焼くときは、厚みをそろえて成形し、焼き色をつけたらふたをして蒸し焼きにすると、中まで火が通りやすくなります。
Q6. 焼いた後に少し置く(レスト)のはなぜ必要?
私の感覚では、「肉が落ち着くから」です。
一般的には、焼いた直後のお肉は中の肉汁が動きやすい状態で、少し置くと肉汁が落ち着いて全体に回り、切ったときに流れ出にくくなると説明されています。焼いてすぐ切ったら、まな板に肉汁が広がってしまった、という経験がある方もいるかもしれません。
ここでひとつ注意があります。レストは、おいしく仕上げるためのひと手間で、菌をやっつけるためのものではありません。表面を焼いた塊肉をアルミホイルで包んで余熱で火を通すような方法は、食中毒を防げるほど肉の内部温度が上がらないので、避けたほうが安心です。
豚肉・鶏肉・挽き肉料理は、焼き終えた時点で中までしっかり火が通っていることを確かめてから休ませましょう。
Q7. 冷蔵庫から出してすぐ焼くのと、常温に戻してから焼くのとで焼き加減は変わる?
変わります。私は、常温に戻してから焼いたほうが味がいいと感じています。
冷蔵庫から出したばかりのお肉は中心が冷えているので、外側が焼けても中が温まるまでに時間がかかります。そのぶん外側に火が入りすぎたり、焼きむらが出たりしやすくなる、と一般的に言われています。特に厚みのあるステーキでは、この差が出やすいと思います。
ただし、常温に戻すといっても、出しっぱなしにするのは禁物です。暑い時期や暖房の効いた部屋では傷みやすくなるので、焼く少し前に出す程度にとどめ、長い時間置いたままにしないようにしましょう。
Q8. フライパンと網焼き・オーブン、焼き加減の調整は同じでいい?
別々に考えたほうがいいです。熱の伝わり方が違うので、焼き上がりの味も変わります。
- フライパン:熱い面に触れたところから火が入ります。焼き色をつけやすく、焼いたあとに残った肉汁や脂をソースに生かせるのもよいところです。
- 網焼き:余分な脂が下に落ち、直火ならではの香ばしさが出ます。火の強いところと弱いところがあるので、焼けぐあいを見ながら置く場所を動かすのがコツです。
- オーブン:まわりの熱い空気で全体を包むように焼くので、塊肉にじっくり火を通すのに向いています。そのぶん時間がかかり、表面に焼き色がつきにくい場合もあります。
同じ厚さのお肉でも、器具が変われば焼き時間は変わります。慣れない器具で焼くときは、Q2の方法や中心温度計で確かめながら進めると安心です。
Q9. 焼き加減を失敗しないために、お店で選ぶときにできることは?
焼き加減の失敗は、選ぶ段階でかなり減らせると私は考えています。お店では、次の3つを考えて選んでみてください。
- 肉の厚さ:Q3のとおり、厚さで焼き方は大きく変わります。家の器具で中まで火を通せる厚さかどうかも考えて選びましょう。
- 脂と赤身の量:脂の多いお肉と赤身中心のお肉では、同じように焼いても仕上がりが違います。赤身は焼きすぎると硬くなりやすいので、焼き時間を短めに意識するとよいと思います。
- 調理方法:フライパン・網焼き・オーブンのどれで焼くかによって、向いているお肉は変わります(Q8参照)。
あわせて、表示も確かめておきましょう。「牛肉加工品」など、加工されたお肉であることや、十分な加熱が必要なことが書かれているものは、ステーキのように見えても中までしっかり焼きます。また、「生食用」の表示がないお肉は加熱用です。
対面で買えるお店なら、焼き方や使う器具を伝えて相談してみるのもひとつの方法です。
まとめ
焼き加減の疑問を9つ見てきました。大事なポイントを振り返ります。
- 豚肉は生食用の販売・提供が法律で禁止、鶏肉も中心まで加熱するよう呼びかけられている
- レアで楽しめるのは、加工していない牛肉のステーキなどに限られる。生で食べられる牛肉は、基準を満たした「生食用」のものだけ
- 焼き加減は色より中心の温度。挽き肉料理は中心部75℃で1分間以上が目安
- 厚さ・器具・肉の温度で焼き方は変わる。選ぶ段階から焼き方を考えておくと失敗しにくい
ちょうどいい焼き加減のお肉が食卓に並ぶと、それだけで家族の会話がはずみます。安全に気をつけながら、それぞれのお肉に合った焼き方で楽しんでいただけたらうれしいです。
参考にした情報
- 厚生労働省「豚のお肉や内臓を生食するのは、やめましょう」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syouhisya/121004/
- 東京都保健医療局「豚の食肉の規格基準」: https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/namashoku/butaniku.html
- 目黒区「ちょっと待って!お肉の生食」: https://www.city.meguro.tokyo.jp/seikatsueisei/kenkoufukushi/eisei/nikukijun.html
- 厚生労働省「鶏肉は十分に加熱して提供しましょう」: https://www.mhlw.go.jp/content/001705087.pdf
- 渋谷区「本当に危険!鶏肉の生食はやめましょう」: https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kenko/eisei/shokuhin-kusei/tori_nama.html
- 広島県「生食用食肉(牛肉)には基準が定められています」: https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/58/nama-shokuniku.html
- 栃木県「生食用の牛肉の基準が定められました」: https://www.pref.tochigi.lg.jp/e07/shokuhin-eisei/namashokuniku.html
- 厚生労働省「7月1日から牛のレバー(肝臓)の生食用としての販売・提供を禁止」(国立保健医療科学院アーカイブ): https://h-crisis.niph.go.jp/archives/54049/
- 内閣府 食品安全委員会「肉を低温で安全においしく調理するコツをお教えします!」: https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/shokuhniku_teionchouri.html
※Q1〜Q9の「私の考え」「私のやり方」は、店主自身の経験にもとづく一次情報です。

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