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鹿肉の臭み抜き完全ガイド|精肉のプロが教える下処理の見極めポイント

こんにちは、がくです。福島県白河市で肉屋「肉の滝沢」をやっています。実は私が住む福島県では、狩猟自体は免許があれば可能なのですが、震災以降の放射能の影響で、獲れた猪や鹿を販売することはできません。それでも近所には罠や狩猟免許をお持ちの方が何人もいて、駆除で獲れた猪肉や鹿肉を「食べてね」と無償で分けてくださることが、実はけっこう頻繁にあります。ちょうど今年、お隣さんが新しく狩猟免許を取得されて、駆除という形で地域に貢献したいとおっしゃっていました。そんな環境にいるからこそ、精肉店の目線で「いただいたジビエをどう見極め、どう美味しくいただくか」をお伝えできればと思い、この記事を書きました。

目次

臭みの正体は「血液の酸化」

鹿肉特有の獣臭・鉄臭さの主な原因は、筋肉中に残った血液です。鹿は運動量が多く筋肉中の血液量も多いため、狩猟後の放血・内臓処理・冷却が遅れるほど、その血液が酸化して臭いが強くなっていきます。また、解凍や保存の際に出る「ドリップ(赤い肉汁)」にも臭み成分が凝縮されているため、これをどう扱うかも臭みの強さを大きく左右します。逆に言えば、プロが適切に処理した鹿肉であれば、そもそも臭みはほとんど残らないとされています。

鹿肉が牛肉や豚肉と違って臭みを感じやすいのには、血液の酸化以外にも理由があります。鹿は野山で自由に暮らし、様々な植物を食べているため、飼育された家畜と違って個体によって脂の質や臭みの強さにかなりバラつきが出ます。またジビエには去勢された個体が存在しません。家畜の場合、去勢することで独特の獣臭が抑えられることが知られていますが、野生の鹿にはそれがなく、特にオスは臭みが強く出やすい傾向があります。猟師さんから伺った話では、獲れた場所によっても違いがあるそうで、山深く険しい山で獲れた鹿は運動量が多いためか赤身の色が濃くなる傾向があるとのことでした。

精肉店が真っ先にチェックするポイント

猟師さんから鹿肉や猪肉をいただいたとき、精肉のプロとして私がまず確認するのは次の2点です。

①寄生虫・虫がいないか目視で確認する

正直に言うと、ジビエで一番怖いのは臭みよりも寄生虫です。スーパーで売っている食肉と違って、野生の鹿や猪は衛生管理された環境で育っているわけではないので、まず肉の表面をしっかり目視で確認することが欠かせません。少しでも気になる点があれば、その部分は思い切って取り除くか、加熱を徹底することが大切です。

②血の抜け具合をチェックする

次に見るのが、血がどれだけしっかり抜けているかです。猟師さんの話では、通常は獲物を仕留めた(止め刺しをした)直後に、内臓を傷つけないよう注意しながら胸を開いて血抜きをするそうです。この処理が早く丁寧であるほど、肉に残る臭みは少なくなります。逆に、時間が経ってからの処理や、慌てて内臓を傷つけてしまった場合は、臭みが強く出やすくなります。もらった肉を見たとき、血の抜け具合をチェックすれば、その処理がどれだけ丁寧だったかがある程度分かります。

下処理の基本ステップ

臭み抜きの前に、まず押さえておきたい基本の下処理が3つあります。

解凍はゆっくりと — 冷蔵庫でじっくり自然解凍するのが基本です。常温解凍や電子レンジ解凍は温度差で繊維が傷み、ドリップが増えて臭みが強まる原因になるため避けてください。

ドリップをしっかり拭き取る — 解凍後、キッチンペーパーで表面の水分を、ペーパーを何度も替えながら丁寧に拭き取ります。ここが下処理の中でも最重要の工程で、洗うより拭くのが基本です。

筋膜・腱・銀皮を除去する — 表面の薄い膜(銀皮)にも臭みが残ることがあるため、包丁の背で丁寧にはがしておくと仕上がりが大きく変わります。

レベル別・臭み抜きの方法

臭み抜きのレベル別方法(初級:水・塩水、中級:乳製品・発酵食品、上級:香草・スパイス・酒)

ここからは、実際に家庭でできる臭み抜きの方法を、負担の軽いものから順にご紹介します。基本的な考え方は、以前ご紹介した肉の臭み消し完全ガイド|プロが使う7つの方法と共通していますが、鹿肉にはより効果的な組み合わせがあります。

初級:水・塩水(家庭でも簡単)

冷水に30分〜数時間浸し、途中で水を替える「水晒し」がもっとも手軽な方法です。3%程度の塩水(水1Lに塩30g)に30分〜1時間浸す方法もよく使われ、浸透圧で血液が抜けやすくなり、肉が白っぽくなれば成功のサインです。より臭いが強い場合は、5〜15%の濃い塩水を使い、水が赤くならなくなるまで繰り返す方法もあります。

中級:乳製品・発酵食品

牛乳またはヨーグルトに30分〜1時間(気になる場合は一晩)浸す方法です。乳タンパク(カゼイン)が鉄臭さの原因物質を吸着し、同時に肉を柔らかくする効果もあります。塩麹・米麹を薄く塗って冷蔵庫で数時間〜一晩置く方法も、酵素がタンパク質を分解して旨味を引き出してくれます。和食に使うなら塩麹がおすすめで、鶏肉・豚肉より漬け込み時間を長めに、できれば一晩取るとより確実です。

上級:香草・スパイス・酒でマスキング&マリネ

ローズマリー、タイム、セージ、ジュニパーベリーが鹿肉と相性抜群です。にんにく・生姜・玉ねぎ・セロリも効果的で、赤ワイン・日本酒・ブランデーに漬けると、酸やタンニンが臭みを抑えつつ肉を柔らかくしてくれます。和風なら味噌や山椒も効果的で、特に猪肉との相性が良いとされています。玉ねぎ・キウイ・パイナップル・舞茸のすりおろしはタンパク質分解酵素を含んでおり、臭み取りと軟化を同時に行えるのも魅力です。

変わり種:塩糖水漬け

強い臭いのエゾシカ肉などには、水100ml・塩小さじ2/3・砂糖大さじ1/2を混ぜた塩糖水に1日漬ける方法も知られています。浸透圧で血抜きされ、肉が白くブヨブヨになった外周部分をそぎ落として調理する、少し上級者向けのテクニックです。

部位別のポイント

ロース:繊維が細かく、過加熱を避ければ臭みは立ちにくい部位です。厚さ2〜3cmで、中心温度55〜58℃を目安に仕上げるとおすすめです。

モモ・カタ(鉄分が多い部位):焼きよりも煮込みやスパイス料理向きです。赤ワイン・トマト・バルサミコ酢の酸味が香りを整えてくれます。

レバー:特に鉄・アンモニア臭が強いので、流水でよく洗浄したあと、牛乳に30分以上浸すのが効果的です。

調理時の注意点

漬け込んだあとは、必ず水分を再度拭き取ってください。水分が残ったままだと、臭みが戻りやすくなります。また、焼き過ぎには注意が必要です。過加熱はレバー臭を強めてしまうとされています。とはいえ食品安全の観点から、家庭調理では中心温度75℃で1分以上の十分な加熱は必ず徹底してください。煮込み料理にする場合は、最初に霜降り(湯通し)をしてアクと血を除いておくと、より透明感のある美味しい仕上がりになります。

いただいた鹿肉、こんな料理がおすすめ

臭み抜きをした鹿肉は、赤ワイン煮込みやシチューなど、じっくり煮込む料理との相性が抜群です。ロースをローストにする場合は、しっかり下味と香り付けをしてから、余熱を使ってじっくり火を通すと臭みが気になりにくくなります。モモ・カタはひき肉状にしてミートソースやそぼろにするのもおすすめで、香辛料と合わせやすく、ジビエ初心者の方にも食べやすい仕上がりになります。

まとめ

鹿肉の臭みの正体は、主に筋肉中に残った血液の酸化です。個体差・オスメス差・止め刺しから血抜きまでの処理の丁寧さも重なって、臭みの強さは大きく変わってきます。もらった肉をまず目視でチェックし、血の抜け具合を確認したうえで、ゆっくり解凍してドリップを丁寧に拭き取り、水・塩水から乳製品、香草・スパイスまでレベルに合わせた下処理を行えば、家庭でも十分美味しくいただけます。

猟師さんの善意でいただくジビエだからこそ、大切に、美味しく食べきってあげたい。そんな気持ちで、この記事が少しでもお役に立てば嬉しいです。

肉の滝沢

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