精肉店が試した|グラスフェッドトップサイドの低温調理ベスト温度は58℃だった

グラスフェッドトップサイドを54℃〜60℃の5パターンで低温調理した比較写真

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目次

この記事でわかること

  • 精肉店が5パターン食べ比べて選んだ、グラスフェッドのベスト温度と時間
  • 「時間を延ばせば延ばすほど良くなる」とは限らないという発見
  • 56℃×3時間と56℃×8時間、同じ温度でも結果が分かれた理由
  • グラスフェッドの赤身部位を、家庭で最大限においしく食べるコツ

結論|精肉店のベストは「58℃×2時間30分」

福島県白河市で精肉店を営む私が、グラスフェッドビーフのトップサイド(厚さ4〜5cm)を54℃〜60℃の5パターンで食べ比べた結論は「58℃×2時間30分」。柔らかさ・旨味・食べやすさのバランスが最も良く、店としてお客様に自信を持って選ばれる仕上がりでした。

面白かったのは、同じ56℃でも3時間と8時間で結果がはっきり分かれたことです。「時間を延ばせば延ばすほど柔らかく美味しくなる」というイメージを持っていましたが、実際に食べ比べてみるとそう単純ではありませんでした。

トップサイドは、もも(ラウンド)の中でも日本で「うちもも」と呼ばれる部分にあたる赤身本体の部位。脂は控えめで、その分「肉らしい旨味」が先に出るのが特徴です。厚みのあるブロックで手に入るので、低温調理との相性が特に良い部位でもあります。(グラスフェッドビーフの部位ごとの特徴は、部位別グラスフェッドビーフの選び方でも詳しく紹介しています。グラスフェッドビーフ自体が初めての方は、グラスフェッドビーフとは?グレインフェッドとの違いを徹底解説もあわせてどうぞ。)

検証条件

項目内容
部位グラスフェッドビーフ トップサイド
厚さ4〜5cmのブロック
下味塩+胡椒
使用機器低温調理器(IRIS OHYAMA)
検証パターンA: 54℃×4時間 / B: 56℃×3時間 / C: 56℃×8時間 / D: 58℃×2時間30分 / E: 60℃×2時間

主役はB(56℃×3h)とC(56℃×8h)の比較。同じ温度で時間だけ変えることで、時間が肉に与える影響がクリアに見えてきます。

安全に食べるために

念のため補足しておきます。54℃という温度は、厚生労働省が家庭向けに示している基準(中心温度63℃で30分以上の加熱)には含まれていない温度帯です。今回は温度計で中心温度が各設定温度に達していることを確認した上で、十分な保持時間を取っています。不安な方は、63℃×30分というシンプルな基準を使うのが一番確実です。低温帯を試す場合は、必ず温度計で中心温度を確認し、余裕を持った保持時間を取ってください。

以前書いたグラスフェッドビーフを使った低温調理レシピもあわせてどうぞ。今回はそこからさらに一歩踏み込んで、温度と時間を細かく比較検証しました。

この記事で使った食材・道具

トップサイド計量の様子
真空パックしたトップサイド

今回の検証で使ったトップサイドと同じものを、当店のBASEでも扱っています。

もう少し量が欲しい方には、こちらもおすすめです。

IRIS OHYAMA低温調理器での仕込み

今回、実際に検証で使ったのはIRIS OHYAMAの低温調理器です。

なお、この記事で参考にしたBONIQの実験データも、同じジャンルの信頼できる低温調理器メーカーのものです。BONIQ製品にも興味がある方はこちらもどうぞ。

【本題】56℃×3時間と56℃×8時間、こんなに違いがあった

56℃×3時間|「肉を噛んでいる」実感が残るミディアムレア

56℃×3時間の検証写真

見た目・断面: 外周から中心まで均一な、明るいロゼ色。切った瞬間から色が抜けることもなく、写真映えするきれいな断面。

食感: 噛み始めに肉らしい弾力がしっかり残っています。ミオシン(筋肉タンパク質)は50〜55℃あたりから穏やかに変性が始まりますが、3時間ではまだ繊維が生きていて、「肉を食べている」という手応えがあるのがこの条件の魅力です。

まず、54℃×4時間よりも肉々しさは強く出ました。時間が短い分、繊維が締まっているという感覚です。

肉汁・ジューシーさ: カット面に軽い肉汁がにじむ程度。バッグに落ちた水分もごくわずか。噛むと口の中でじゅわっと広がり、「肉汁を閉じ込めた」感覚がしっかりわかります。

味・香り: グラスフェッド特有のミネラル感、鉄分を思わせる香りが素直に立ち上がります。塩+胡椒だけで十分。わさび醤油や粗塩、少量のオリーブオイルなど、引き算の食べ方が合います。

こんな人・こんな食べ方に向く:

  • ステーキ感覚で肉々しさを楽しみたい
  • 1cm厚に切って、かぶりつくように食べたい
  • 赤身のミネラル感・鉄っぽさが好き
  • 短時間で終わってその日のうちに食べたい

56℃×8時間|「延ばせば延ばすほど良い」わけではなかった

56℃×8時間の検証写真

見た目・断面: 3時間のときとほぼ変わらない、明るいロゼ色をキープ。同じ56℃なので色調はほぼ変わりません。見た目だけでは3時間との違いが分かりませんでした。

食感: 正直に言うと、ここが一番の発見でした。「8時間もかければもっと柔らかくなるはず」と予想していましたが、3時間のものと比べて劇的に柔らかくなった実感はなく、むしろ少し噛み応えが残る仕上がりでした。

肉汁・旨味: 率直に言って、肉が本来持っている旨味が薄まったような、少し物足りない印象でした。低温調理器メーカーBONIQの実験データでは、時間を延ばすほど柔らかさ・旨味が上がる傾向が報告されていますが、今回の「3時間→8時間」という範囲では、その効果をはっきりとは感じられませんでした。もっと長く(12時間、24時間など)延ばせば違う結果になった可能性もありますが、少なくとも今回の条件では、時間を延ばすメリットより旨味がぼやけるデメリットの方が勝った、というのが正直な感想です。

味・香り: 3時間のものと比べて、牛らしい香りやミネラル感がやや穏やかになった印象。悪くはありませんが、際立った良さも感じにくい仕上がりでした。

こんな場合は試してみる価値があるかもしれません:

  • 「時間を延ばすとどう変わるか」を自分の舌で確かめてみたい
  • 8時間より長い設定(12時間、24時間など)も含めて検証してみたい

3時間と8時間の違いを一枚の表で

比較項目56℃×3時間56℃×8時間
色調明るいロゼ明るいロゼ(ほぼ同じ)
食感しっかりした噛み応え3時間とあまり変わらず、やや硬さも
肉汁カット面にじゅわっとにじむ目立った変化なし
旨味肉らしくストレートやや薄く感じる
総合評価良い3時間ほどの満足感はなかった
向く食べ方厚切りステーキ(積極的にはおすすめしにくい)
向く相手肉好き・赤身派時間による変化を検証したい方

なぜ「時間」だけでここまで変わるのか

科学的な裏付けを簡単に整理しておきます。

  • ミオシンは50〜55℃あたりから穏やかに変性が始まり、肉の旨味を引き出しつつ柔らかい食感を作ります
  • アクチンは60℃を超えるとしっかり変性しますが、それ以下の温度でも長時間かけることで筋繊維が緩み、コラーゲンも徐々にゼラチン化していきます
  • 学術研究でも、55〜75℃の長時間調理ではコラーゲンのゼラチン化が肉のかたさに大きく影響し、牛肉では調理時間を1日から5日に延ばすと統計的に有意にやわらかくなったという報告があります
  • 一方で、低温調理器メーカーBONIQの実験では、55℃前後でも時間を24時間まで延ばすとジューシーさは徐々に落ちていく傾向も確認されています。柔らかさ・旨味は時間とともに上がりますが、水分は少しずつ失われていく、というトレードオフがあるようです

文献の多くは「時間を延ばすほど柔らかく、旨味も増す」傾向を報告していますが、今回の実験では56℃の3時間→8時間という範囲でその効果をはっきりとは感じられませんでした。素材の個体差や、感じ方の違いによるものかもしれません。データはあくまで参考として、最終的には自分の舌で確かめるのが一番——これが今回の実感です。

参考|他の温度も試して思ったこと(A・D・E)

56℃の3時間・8時間だけでなく、54℃と58℃、60℃も検証しました。それぞれの実感を簡単に紹介します。

A|54℃×4時間 ― レア感がクッキリ、でもクセがなく食べやすい

54℃×4時間の検証写真

「56℃より2℃低いだけ」ですが、レア感は強くなります。断面の赤みが濃くなって、繊維の生っぽさも少し感じられます。

意外だったのは、これだけレア寄りなのにクセや獣っぽさが出なかったこと。グラスフェッドは温度が低いと臭みが出やすいと言われますが、塩+胡椒だけで十分美味しく食べられました。赤身好き・レア好きにストレートに刺さる仕上がりです。

D|58℃×2時間30分 ― これぞ「ちょうどいい」の基準点、一番のお気に入り

58℃×2時間30分の検証写真

5パターンの中で一番のお気に入りがこれです。

外周から中心までグラデーションのない均一な濃いピンク。ナイフの入りがすっとなめらかで、口の中でしっとりとほどけていきます。赤身の旨味と、グラスフェッドの脂が持つ香りがバランスよく調和する温度帯。

食べた瞬間に「ズバリ、これだ」と直感的に思いました。柔らかさ、旨味、食べやすさ、香りのバランス、そのどれもが「ちょうどいい」に落ち着いている。生っぽさや鉄分感が苦手な人にも安心して出せる仕上がりで、ローストビーフの薄切りで盛るならこの温度が扱いやすい。

赤ワインソース、玉ねぎソース、粒マスタード、どれとも合わせやすく、店として自信を持ってお客様に選べる基準の一枚です。

E|60℃×2時間 ― 旨味がやや控えめ、ソースの力を借りたい温度

60℃×2時間の検証写真

断面はやや白みがかった淡いピンク。噛むと歯切れは少し増しますが、少し噛み応えが残ります。アクチンが変性し始める温度帯に近いこともあってか、Dと比べると肉本来の旨味がやや薄く感じられました。

正直に言うと、塩+胡椒のシンプルな味付けだけでは少し物足りず、ソース系の味付けを合わせたくなる仕上がりでした。

5パターン全体の結論|精肉店としてのおすすめ

グラスフェッドトップサイドを54℃〜60℃の5パターンで低温調理した比較写真
温度・時間一言で向く相手・食べ方
D: 58℃×2時間30分ダントツで一番好き、バランス最良万人向け・店頭のおすすめ
A: 54℃×4時間シンプルに食べやすいレア赤身好き・レア派
B: 56℃×3時間肉々しさが際立つミディアムレアステーキ感覚で厚切りに
C: 56℃×8時間旨味がやや薄く、伸び悩んだ印象時間による変化を検証したい方
E: 60℃×2時間旨味やや控えめ、ソースが欲しくなるソース系の味付けと合わせて

滝沢の結論:

  • 一番好きだったのはD(58℃×2時間30分)。5パターンの中でダントツでした
  • 次点はA(54℃×4時間)。レアなのにクセがなく食べやすい
  • B(56℃×3時間)も悪くないですが、Dには一歩譲ります
  • C(56℃×8時間)とE(60℃×2時間)は、正直に言うと旨味がやや薄く感じ、当店として積極的にはおすすめしにくい結果でした
  • 「時間を延ばせば延ばすほど良くなる」という思い込みは、少なくとも今回の3時間→8時間の範囲では当てはまりませんでした

グラスフェッドは脂が少ない分、火入れの温度と時間の設計が結果に直結します。「長く煮込めば煮込むほど良い」とは限らないのが、この部位の面白さでもあり、難しさでもあると感じました。

トップサイドを低温調理するときのコツ(精肉店から)

  • 厚さは4〜5cmを目安に。薄すぎると時間で差を出しにくく、厚すぎると中心まで温度が届くのに時間がかかります
  • 下味は塩+胡椒でシンプルに。グラスフェッドの持ち味であるミネラル感を消しません
  • 切るときは繊維に対して直角に。トップサイドは繊維の方向がわかりやすいので、この部位こそ切り方で味の印象が変わります
  • 常温に戻してから盛り付ける。冷たいまま切ると肉汁が流れやすくなります
  • 「時間を延ばせば延ばすほど良い」とは限らない。今回の56℃×3h vs 8hがその実例で、温度と時間の両方を試してみないと最適解は分かりません

まとめ

同じトップサイド、同じ56℃でも、3時間と8時間では仕上がりが変わります。ただし「時間を延ばせば延ばすほど良くなる」わけではなく、今回は3時間の方が旨味をしっかり感じられる結果になりました。

  • 3時間: 肉らしい弾力とストレートな赤身の旨味
  • 8時間: 見た目はほぼ同じだが、旨味がやや薄く感じる、伸び悩んだ印象

そして5パターン全体で選ぶなら、私の一番のお気に入りは58℃×2時間30分。柔らかさ・旨味・食べやすさのバランスがダントツで良く、店として自信を持ってお客様に選べる仕上がりでした。

グラスフェッドのトップサイドは、温度と時間の組み合わせ次第で仕上がりが大きく変わる、奥が深い部位です。この記事が、家庭で美味しく食べる一助になれば嬉しいです。

参考文献

  • BONIQ「ホールディングは有効?比較実験〜牛もも〜」シリーズ(boniq.jp)
  • 松阪牛グループ「牛肉の低温調理55度|部位別の時間・失敗の原因・安全な菌対策を一気に解説」(matsusaka-group.com)
  • J-STAGE「低温長時間処理が真空調理した牛すね肉および豚すね肉の物理化学および官能特性に及ぼす影響」
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